
群馬県立中央中等教育学校・管弦楽部による第12回定期演奏会を拝聴し、県内の中・高校生の中でも高い芸術的な品格を備え、無限の可能性に挑戦できる環境にある生徒さんたちに涙しました。
もし、生まれ変われることができるなら、中央中等オーケストラに入部したいと心底思いました。それは多感な青春時代に大作曲家の優れた作品に直接触れることのできる稀に見るチャンスがあるからです。
彼らの未来は、生涯にわたり音楽芸術を愛好する豊かな生き方へと結びつくことでしょう。一般的には、中高校生時代にそのような環境に恵まれることはないものです。
私が中央中等オーケストラに対して深く感銘するのは、取り組みについて「音楽が真似ごとでなく、本物である」点です。
日頃、古今の名作に挑戦できる中・高校生の姿を見ることはほとんどありません。多くは、娯楽的要素に偏るものや、コンクールと称して他校に勝利することが目的になり、芸術本来の持つ無限の美への挑戦とはなり得ないものです。
ところで、今回のプログラムも多岐にわたり、4月から短期のうちに、また、猛暑の夏休み返上しての集中練習には、指導者の先生とともに、それに応えて頑張った生徒さんに敬服いたします。
特に難曲である「道化師」ではギャロップやエピローグを中心として、マリンバのハイレベルな実力、トランペットによる明瞭なテンポ感に会場が躍動感に包まれました。
スメタナの「モルダウ」では弦楽器も、管楽器も、なかんずくバイオリン群の厚みある音色で奏でた短調の極みから一転して、長調での雄大にして華やかな表情への変化は超高校級に感じてなりませんでした。
その間、流れるフルートやクラリネットにおける細かなパッセージの流麗さ、そして優れたテクニックが会場に伝わり、「音楽とは一瞬一瞬における美の連続である」ことを改めて認識できました。
今回の定演ではたくさんのプログラムから、The sound of musicやSing Sing Singも楽しく聴けました。すべてについて感想をメモリましたが、代表してメイン曲「未完成交響曲」について拙い感想です。
この曲が「なぜ未完成になったか」について司会者の方が少し述べられましたが、シューベルトがオーストリア音楽協会の名誉会員に推薦された返礼として書き始めたとも伝えられ、曲の途中までの楽譜を協会に送ったものの、生涯僅かに31才という短命のため、シューベルトの死後も楽譜が未完成のまま長期間、協会の書庫に眠り、死後、約40年ほどして発見され、日の目を見たと伝えられ、司会者の説明のように1・2楽章が余りにも良く出来てしまったので、流石のシューベルトも次の楽想へ発展しなかったのかもしれません。
また、1楽章・2楽章ともに3拍子で作曲したために、本来、シンフォニーは3楽章が3拍子の形をとるので、この点からも次へ続かなかったとも推測できます。
いずれにしても、この曲は「形式は未完成であっても、内容は十分に完成している」といえることから、今日、名曲中の名曲として残ってるのでしょう。

ところで、1楽章の導入はコントラバス・チェロによる地底から響くような表現にまず圧倒されました。会場が静まり返った低音の出だしは、音程に神経を集中しなくてはなりません。40年振りに暗い書庫から日の目を見た神秘性は充分に会場に伝わりました。そしてバイオリン群の16分音符に先導されたオーボエ・クラリネットによる第1テーマは、特に繰り返した2回目が素晴らしかったです。
それに続くホルン・ファゴットによるロングト―ン後のゆったりとした四重奏は、リタルダンドを伴って有名なハーモニーが見事に奏され、それに続く第二テーマはチェロにより伸び伸びとした幸福感漂う名旋律に繋がりました。
1楽章における演奏の圧巻は、導入のテーマを用いた掛け合いの展開部にありました。これでもかと盛り上がる対位法的音楽の流れが、次第に頂点へと進むところに指揮者の先生の指揮振りが、より気高く表現され、そのタクトという筆に見事に応えている生徒さんのキャンパスは、トロンボーンの溌剌とした響きに代表され、私は背中がぞくぞくしました。美とは次第に精神が高揚する充実さにあるのでしょう。この楽章の頂点は対位法を伴う展開部にあり、演奏にとても感銘しました。
2楽章はホルンとファゴットの魅力的な音色に誘導され、バイオリンによる束の間の天上の幸せから一瞬、不安感がよぎり、全体的に急緩による不安と安堵そして納得が交互に感じられ、明暗の対比が強弱をも伴って明確に表現されてました。
それに続くクラリネットの悲壮感に対し、幾分か明るい兆しを呈示するオーボエの応答に安堵です。ここで聴き逃してはならないのが、この旋律を惹きたてるバイオリン、ビオラによるシンコペーションのリズムで豊かな音色に参りました。
再度、今度は先にオーボエによる悲壮感漂う呈示があり、それに応答し、あたかも隙間から一筋の光が差し込むようなクラリネットの優しさに、これ以上の充実を求めない私がありました。
今回、未完成交響曲を拝聴し、私たちは何事も満点を求め取り組みますが、その目標に挑戦することは大切であっても未完成交響曲のように「内容の充実さ」も人生において肝心であり、「いかに豊かな内容を持つか」が真の幸福につながるのではないかと悟りました。
中央中等オーケストラ部の皆さん、オーケストラの織り成すハーモニーに心から堪能できました。国際色豊かで、人間味いっぱいの顧問の下、これからも本当の美を求めてください。お陰さまで楽しい時間が持てました。
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